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風花藍流の私設小説ブログです。つまらないと思いますが、どうぞ~。


by AIL-kazabana

もう一つの小さな一歩 2

「え? ということは、レンも親の意向でか?」

駅前にある、ちょっとした喫茶店。
落ち着いた雰囲気なのに上品さを感じないので、地元の学生に馴染み深くなっている。学校帰りの女子高生や、学生カップルがちらほらと目にする。テーブルが数個とカウンターがあるだけのこじんまりしているところも、馴染み易さの一つかもしれない。
そんな喫茶店のテーブル席で、向かい合って座った私達は、お互いの身の上話に花を咲かせていた。

「ウチもよぉ……、父親が息子を欲しがってたらしくてな……。で、生まれたのが娘で、でも諦めきれずに俺を男らしく育てたらしいんだよ……。まったく……、身勝手な話だぜ……」

腕を組みながら、少年……いや少年にしか見えない少女のナギは、自分がどうしてこう育ったのかを語っていた。その話を聞いても、ナギはやっぱり男に見える。まあ私も、人のことは言えない外見だけど……。

「それにしても、やっぱり女にしか見えないな……。髪とかも綺麗だし……、未だに男だと信じられん……」
「お互い様だと思いますよ……」

私は、髪が長くて腰まであるし、女物の着物を着てるし、姉にもよく「自慢の妹だ」とか言われるけど、これでもれっきとした男なのだ。だったら何でそんな見た目をしているのかと言われそうですが、これにはちゃんと理由がある。
ナギとはその理由がよく似ているので、それをさっきまで話していたのだ。
それにしても、ナギとは話せば話すほど親近感が湧いてくる。驚くほど一緒だったり、鏡のように反対だったり……。共感と新鮮さが交互に現われて、とても面白い。
姉ほどではないけど、私も初対面の人には抵抗があると思う。なのに、ナギには抵抗どころか、不思議な魅力を感じていた。その証拠に、さっき知り合ったとは思えないほど砕けた雰囲気になっている。他の人ならありえないことだ。

「それにしても、不思議だな……オレ達。偶然出会っただけなのに、こんなに共通点があるんだもんなぁ……」
「本当ですよね……。なんだか、運命を感じてしまいます……」

この世界に生まれる前から出会うことが決まってたかのような、そんな不思議で突拍子も無い想像。普段だったらそんなことは思わないのに、ナギと話していると考えてしまう。それほどまでに、私にとってナギの存在は驚愕に満ちていた。

「おお、やべぇ……、そろそろ帰らなねぇと……」
「あ、もう日が暮れますね……」

 喫茶店に入ったのは昼頃。それなのに、すでに外は茜色に染まり、町は彩りを変えていた。気付かないうちに、随分と話し込んでいたようだ。

「じゃあ、明日もここで会おうぜ、レン」
「はい、また明日です、ナギ」

今日あったばかりの、それこそ全然お互いのことを知らない私達。
なのに、不思議と次に会う約束を交わしていた。
それがまるで旧知の友人かでもあるように、とても自然に感じられたのだった。

それからは、毎日のようにナギと遊んだ。
お互いのことを話したり、買物に行ったり。
お互いの服を取り替えて着てみたりということもあった。
ナギと一緒に居ると刺激的で、なのに心地が良かった。
だから遊んで遊んで、沢山笑いあった。


……まさか、それが終わる日が来るなんて想像もしてなかった――
by AIL-kazabana | 2011-03-31 23:41 | 小説