髪……良し。
制服……良し。
ハンカチ……良し。
鞄の中のチョコレート……良し。
2月の丁度中間。恋する人が一番気合を入れ、想いの詰まった品を渡す日。
ヴァレンタインデー。
そして、私も御多分に漏れずに今日、チョコレートを持って家を出た。
暦の上ではもう春だというのに、朝の気温は吐いた息が白くなるほどに低い。
冬のピーンと張り詰めたような空気が嫌いではないが、やっぱり寒いのは嫌いだった。
街はこの日のためにデコレーションされ、ところどころでハートマークが目立つ。
街を歩く、私と同じくらいの高校生も、緊張と高揚が滲み出ているのが見て取れた。
「こういうのを、ピンク色の空気っていうのかな……?」
そんなどうでもいい事を考えないと、緊張で胸が詰ってしまいそうだった。
たぶん、ここに歩いている人と同じように、私からも緊張が見て取れるだろう……。
鞄の中のチョコレートを意識して、それを渡す場面を想像する。その瞬間、心臓が早鐘を叩くように暴れだす。
「あ~あ、本当に心臓が止まりそう……」
私は雲ひとつ無い空を仰いで呟いた。すると。
「おい、それって大丈夫なのか? 病院連れて行くぞ?」
見知った顔が目の前に突然現れる。さっきまで想像で思い描いていた顔は、今ではとても近くにあり、とても心配そうに眉が寄っていた。
「なっ! だ、大丈夫だから! ほ、ほら、全然元気だから心配いらないし!」
あまりの不意打ち。すぐに距離をとって、元気なことをアピールするために、笑顔を浮かべて手を振る。
「そうか? まあ、いいんならいいが……。とりあえず、日下部おはよう」
「お、おはよう……月村」
心配そうにしていた顔が急に笑顔になり、ついつい顔を俯かせてしまう。
彼……月村修吾は私の挨拶を満足そうに聞き、そのまま私の横に並ぶ。
彼とはこうやって一緒に登校することがある。月に2回程度だが、学校での席も隣で何かと話が合うので、時間が合うとこうして会話しながら歩くようになった。
今日もたまたま時間が合ったのだろう。でも、そのおかげで心臓がさっきから凄い勢いで脈打っている。不意打ち+特別な日のせいだろうけど……。もしかしたら、月村が近くにいるときは毎日こんなものかもしれない。
「日下部は宿題やってきたか?」
「化学の? それとも英語?」
「英語の方。昨日、辞書忘れちまって出来なくってな……」
苦々しく呟く月村がおかしかったので、クスクスと笑う。
「という訳で、見せてくれ!」
月村は頭の上に手をそろえ、拝む様なポーズをとる。
私はそれを笑いながら、了承する。
「はいはい、その代わり化学のほうを見せてね」
「お前もやってないのかよ!」
そんな軽口。
いつものように接しているのに、頭の片隅には常にチョコレートが浮かび、ソワソワと月村の目を見てしまう。
でも、月村はそんなことも知らず、いつものように私に冗談を言って笑わせてくれた。
鈍くて助かった。でも、ちょ切ない……。
気付いて欲しくないけれど、ちょっとだけ気付いて欲しくもあり、そんな矛盾した思いが胸を締め付ける。
あ~あ、本当に……。
「心臓止まりそう……」
「ほ、本当に大丈夫なのか!?」
まだチョコレートは鞄の中で、想いと共に届く刻を待っていた。
受け取られることを祈りながら――。
あとがき:
はい、今回はバレンタインとの事で、こんな小説になりました~。
う~ん、甘い……のか? 微妙……。
書き始めた当初はちゃんと、チョコを渡してから告白して、その後のことを書くつもりでしたが……、メチャクチャ長くなりそうだったので切りました。全部書こうとすると、今回の5倍くらいになりそうでしたから……。
そんな訳で、まずは読んで頂きありがとうございます。
中途半端な状態ですが、読んでみてどうでしたでしょうか?
今回は、恋に生きる女の子の心情で書き上げました。切なく揺れる心模様が表現できたら幸いです。
さて、皆さんのバレンタインの成功を祈って、チョコの代わりに私からこの小説を送ります。
ではでは。
制服……良し。
ハンカチ……良し。
鞄の中のチョコレート……良し。
2月の丁度中間。恋する人が一番気合を入れ、想いの詰まった品を渡す日。
ヴァレンタインデー。
そして、私も御多分に漏れずに今日、チョコレートを持って家を出た。
暦の上ではもう春だというのに、朝の気温は吐いた息が白くなるほどに低い。
冬のピーンと張り詰めたような空気が嫌いではないが、やっぱり寒いのは嫌いだった。
街はこの日のためにデコレーションされ、ところどころでハートマークが目立つ。
街を歩く、私と同じくらいの高校生も、緊張と高揚が滲み出ているのが見て取れた。
「こういうのを、ピンク色の空気っていうのかな……?」
そんなどうでもいい事を考えないと、緊張で胸が詰ってしまいそうだった。
たぶん、ここに歩いている人と同じように、私からも緊張が見て取れるだろう……。
鞄の中のチョコレートを意識して、それを渡す場面を想像する。その瞬間、心臓が早鐘を叩くように暴れだす。
「あ~あ、本当に心臓が止まりそう……」
私は雲ひとつ無い空を仰いで呟いた。すると。
「おい、それって大丈夫なのか? 病院連れて行くぞ?」
見知った顔が目の前に突然現れる。さっきまで想像で思い描いていた顔は、今ではとても近くにあり、とても心配そうに眉が寄っていた。
「なっ! だ、大丈夫だから! ほ、ほら、全然元気だから心配いらないし!」
あまりの不意打ち。すぐに距離をとって、元気なことをアピールするために、笑顔を浮かべて手を振る。
「そうか? まあ、いいんならいいが……。とりあえず、日下部おはよう」
「お、おはよう……月村」
心配そうにしていた顔が急に笑顔になり、ついつい顔を俯かせてしまう。
彼……月村修吾は私の挨拶を満足そうに聞き、そのまま私の横に並ぶ。
彼とはこうやって一緒に登校することがある。月に2回程度だが、学校での席も隣で何かと話が合うので、時間が合うとこうして会話しながら歩くようになった。
今日もたまたま時間が合ったのだろう。でも、そのおかげで心臓がさっきから凄い勢いで脈打っている。不意打ち+特別な日のせいだろうけど……。もしかしたら、月村が近くにいるときは毎日こんなものかもしれない。
「日下部は宿題やってきたか?」
「化学の? それとも英語?」
「英語の方。昨日、辞書忘れちまって出来なくってな……」
苦々しく呟く月村がおかしかったので、クスクスと笑う。
「という訳で、見せてくれ!」
月村は頭の上に手をそろえ、拝む様なポーズをとる。
私はそれを笑いながら、了承する。
「はいはい、その代わり化学のほうを見せてね」
「お前もやってないのかよ!」
そんな軽口。
いつものように接しているのに、頭の片隅には常にチョコレートが浮かび、ソワソワと月村の目を見てしまう。
でも、月村はそんなことも知らず、いつものように私に冗談を言って笑わせてくれた。
鈍くて助かった。でも、ちょ切ない……。
気付いて欲しくないけれど、ちょっとだけ気付いて欲しくもあり、そんな矛盾した思いが胸を締め付ける。
あ~あ、本当に……。
「心臓止まりそう……」
「ほ、本当に大丈夫なのか!?」
まだチョコレートは鞄の中で、想いと共に届く刻を待っていた。
受け取られることを祈りながら――。
あとがき:
はい、今回はバレンタインとの事で、こんな小説になりました~。
う~ん、甘い……のか? 微妙……。
書き始めた当初はちゃんと、チョコを渡してから告白して、その後のことを書くつもりでしたが……、メチャクチャ長くなりそうだったので切りました。全部書こうとすると、今回の5倍くらいになりそうでしたから……。
そんな訳で、まずは読んで頂きありがとうございます。
中途半端な状態ですが、読んでみてどうでしたでしょうか?
今回は、恋に生きる女の子の心情で書き上げました。切なく揺れる心模様が表現できたら幸いです。
さて、皆さんのバレンタインの成功を祈って、チョコの代わりに私からこの小説を送ります。
ではでは。
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by AIL-kazabana
| 2009-02-14 00:00
| 小説